宇宙技術開発株式会社

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ロケット、衛星、情報通信、宇宙ステーション、射場まで。システム開発も含めた運用のエキスパート。

有人宇宙開発に関する世界の動向

※ 2019年改定予定です

現在の有人宇宙開発を取り巻く動向(概要)

2000年10月から国際宇宙ステーション(ISS)への滞在クルーの常駐が開始され、これ以降、有人宇宙開発も新たな段階に入り、米露が協力して有人宇宙開発を進めるようになりました。2008年2月にはISSに欧州実験棟が加わり、日本も、2008年3月、5月、2009年7月の3回に分けて「きぼう」実験棟をISSに結合しました。2008年3月には欧州補給機(ATV-1)がISSへの物資補給に加わり、2009年9月には日本の宇宙ステーション補給機HTV1「こうのとり」もISSへの物資補給に加わりました。
こうして、米国・ロシア・欧州(ESA)・日本・カナダが協力してISS運用を行い、各種実験を行うようになりました。

一方で、2011年7月のSTS-135を最後にスペースシャトルは退役し、宇宙へのアクセス手段がロシアに依存するしかない状態となりました。そこで勢力をつけてきたのが商業宇宙活動であり、いまはまさに変革期にあります。以下にその辺の事情を解説しましょう。

<参考サイト>

有人宇宙開発に参入する米国の民間企業の動向

ドラゴン宇宙船

最初にこの分野の参入に成功したのは、スペースX社です。ISSへの物資の補給に使われるドラゴン宇宙船を開発すると共に、ファルコン9(Falcon9)ロケットという打ち上げ手段も一気に実用化しました。2012年5月にCOTS(Commercial Orbital Transportation Services) C2+という試験飛行を行い、ISSへ物資を届けるデモフライトに成功しました。

このドラゴン宇宙船はATVやHTVよりも野心的で、ISSからの物資の回収にも成功(2010年12月にDragon試験機の飛行・回収に成功し、軌道上から宇宙機を帰還させた世界初の民間企業となりました)し、2012年12月にはスペースX社のCRS-1フライトに成功し、NASAからの依頼でISSへの商業輸送を本格的に開始しました。同社は2015年までに12回以上のISSへの無人補給フライトCRS(Commercial Resupply Service)を行う契約を16億ドルでNASAと結んでいます。

NASAとの間でこのCOTS/CRS契約を結んだ企業はもう1社あり、オービタルサイエンス社(Orbital Sciences Co.)はシグナス(Cygnus)補給船をアンタレスロケットを使って打ち上げる予定です。シグナス補給船は、HTVと同様に使い捨てであり、エンジンやISSとの通信装置はHTVのために開発された装置を日本から購入して開発期間を短縮しています。2013年1月現在、シグナスは5月にISSへの初の試験飛行を行い、年内には本格的なCRS商業フライトを行う予定です。

<参考サイト>

商業有人飛行に向けた動き

シャトル退役後、ISSへのクルーの輸送はロシアのソユーズ宇宙船に完全に依存しています。米国がこのような状況を放置するわけはなく、既に次に向けた開発が進んでいます。

NASAはアポロ宇宙船を大型化させたようなオリオン宇宙船とその打上げ用のSLSロケットを開発していますが、これは月探査や小惑星探査を目指すもので、ISSのような低周回軌道へのクルーの輸送は民間企業に任せる方針です。オリオン宇宙船は2017年に無人での飛行試験を行い、2021年に有人飛行を行う予定で、推進系や電力系などが装備されるサービスモジュールは、ESAのATVを基に開発し、NASAに提供することになっています。

民間企業が開発している有人商業宇宙船の筆頭に挙げられるのは、先に無人補給船で紹介したスペースX社のドラゴンの有人型です。こちらは既に着々と開発が進められており、2015年には有人飛行を行う予定になっています。

オリオン宇宙船

また、宇宙開発の大手企業であるボーイング社(Boeing)もCST-100というカプセル型の有人宇宙船を開発しています。CST-100の有人飛行試験は2016年を予定しています。もう1社、シエラネバダ社という会社がドリームチェイサー(Dream Chaser)という有人小型シャトルを開発しています。日本ではあまり知られていない会社ですが、ドリームチェイサーはNASAが以前開発していたHL-10という機体の開発を引き継いだもので、一から新規開発しなくても大丈夫でした。ドリームチェイサーも2016-2017年頃の有人飛行を目指しています。

CST-100とドリームチェイサーは、ULA社が運用しているアトラスVロケットでの打ち上げが予定されており、ファルコン9を独自に開発したスペースX社とは違って、宇宙機のみの開発に専念できます。

<参考記事サイト>

インフレータブルモジュールの開発

米国のビゲローエアロスペース社(Bigelow Aero Space)は、軌道上に打ち上げた後、空気で膨張させて生活空間を拡大できるようにする膨張式の与圧モジュール(インフレータブルモジュール)の開発を進めており、BEAM(Bigelow Expandable Activity Module)という小型モジュールが2015年にISSに運ばれ、2年間の試験が行われる予定です。BEAMが成功すれば、より大型で最大6人が滞在可能なBA-330モジュール(長さ13.7m、直径6.7m、容積330m3)が2016年以降に実用化され、宇宙ホテルや実験スペースとして使う事が考えられているようです。

米国の民間企業がいきなりこのような野心的な計画を立てられる背景としては、NASAからの技術移転があることや、宇宙技術者の転職が盛んなことがあげられます。NASAは、1990年代からインフレータブルモジュールTransHabの検討を行っており、予算と政治的な問題から2000年にキャンセルされましたが、同社はNASAからこのライセンス技術を取得して開発を続けてきました。同社は2006年にGenesis1を、2007年にもGenesis 2という無人試験機を打ち上げて飛行試験を行っており、実績を積み重ねています。

<参考サイト>

宇宙服の開発

米露以外には、欧州がソ連と共同開発(実用化まで至らず中止)した他、中国がロシアの宇宙服をベースに国産宇宙服を開発して宇宙で実際に使用しています。また、日本は先進的なコンセプトの国産宇宙服の開発に着手しようとしています。イランも船内与圧服と推測されますが、有人宇宙飛行に備えた宇宙服を開発する方針を表明しています。米国は、月や火星探査でも使える次世代宇宙服の開発を進めており、現在プロトタイプとして開発されているZ-1の改良型となるZ-3を2017年までにISSで試験使用する事が計画されている模様です。

また商業弾道宇宙飛行の実用化に備えて、民間企業も安価な船内与圧服の開発を進めており、Final Frontier Designという会社がNASAの与圧服の1/5の価格で製造するとの動きがあります。

<参考サイト>

宇宙実験のホットな成果

ISSでの研究はまだ始まったばかりであり、具体的な成果が出ている実験はごく一部に過ぎません。大半はまだ研究者たちによって解析中で、これから論文発表されて公開されることになります。こうした論文で最終的な成果にまだまとめられていないものの、最近、研究者たちの間で関心を惹いているトピックスがいくつかあります。

一例として、宇宙飛行士の目の焦点が合わない症例があります。これは2011年ごろから話題になり始めたもので、医学的な分野では最もホットな話題です。頭蓋内の圧力の影響で微少重力環境下で引き起こされる機能障害とされており、障害を起こしたクルーも、帰還後はこの症状が消えます。この問題を調べるために2013年春から新たな実験が行われることになりました。

また、ISSでの研究ではありませんが、宇宙に長期間滞在すると、宇宙線による脳の被ばく量が増えるためアルツハイマー病の進行が速まる可能性があるという論文も2012年末に発表されました(注:ISSの高度ではバンアレン帯に守られているため、影響はありません)。宇宙に長期滞在するにはまだまだ調査研究すべきことがあるようです。

一方で、昔から懸念されていた無重力環境下での筋力と骨の衰えの問題は、ISSでの研究の結果、ほぼ対応可能と考えられるようになってきました。筋力は軌道上で毎日トレーニングすれば維持することができ、骨の衰えの方もビスフォスフォネートの服用で解決可能と考えられており、これらはISSでの成果でもあると言えます。

このような研究をさらに進めて、火星への有人飛行への問題を探るために、2015年からISSに1年間クルーを長期滞在させて、人体へ与える影響を詳しく探る研究がスタートします。ミール時代にも1年以上宇宙滞在を行ったことはありますが、当時に比べるとISSの医学検査機器は遥かに進歩しているので、多くの事が分かるようになると考えられています。

<参考記事サイト>

中国の有人宇宙開発の動向

米露、及び日欧を除いて有人宇宙開発を行っている国としては中国があります。 2003年10月に宇宙飛行士を搭乗させた神舟5号の打ち上げに成功し、船外活動の実施(2008年9月)、中国版宇宙ステーション「天宮1号」とのドッキング(2011年11月に無人で成功、2012年6月には神舟9号で有人ドッキングに成功)を行うなど、旧ソ連がたどった道を着々と進んでいるような感じです。
中国版宇宙ステーションは、今後も天宮2号、3号と進んでいく予定で、徐々に規模が大きくなると想定されています。

それ以外の国の有人宇宙開発計画

インドは2017年以降を目標に有人宇宙飛行を行う計画を進めているようです。
また、イランは2017年までに有人弾道飛行を行い、2023年までに有人軌道飛行を行う予定であるとの発表を行っています。

最後に

ソユーズ宇宙船で日本人宇宙飛行士を打ち上げる際に、高いお金を支払って行く価値があるのかと疑問に思われる方も多いようですが、日本はロシアに搭乗費用を直接払っているわけではありません。NASAが費用を払って席を確保しているのですが、日本はNASAにもお金は払っていません。

お金を支払うのではなく、ISSの共通運用経費(すなわち、電力、空気、水、排熱、宇宙飛行士の時間などのリソースを各国で負担し合う経費)の負担と合わせて、例えばHTVでISSへの物資補給を行ったり、きぼう内部のスペースを提供したりする事で負担する形にしています。技術開発に関連した物納形式にして、日本の技術蓄積と雇用拡大に寄与するという考えです。

従って、日本が開発を負担した分の権利は、ちゃんと行使しないともったいないとも言えます。同様のことは欧州宇宙機関(ESA)も行っており、ESAはATVでISSへの物資補給を行う事で相殺しています。ATVは5号機で終了しますが、その後はオリオン宇宙船のサービスモジュールを開発し、提供する形で補う方針のようです。
国際共同プロジェクトではこのような形式が良く取られており、スペースシャトルの時代からESAはスペースラブを開発してNASAに提供する代わりに、ESAの宇宙飛行士をシャトルに搭乗させてもらっていました。

もし米露が月や小惑星への有人探査を行う際に、日本も参加したいと考える場合は、ESAのように宇宙機の開発に参加して提供するのが手っ取り早い方法です。宇宙服の開発協力でも良いでしょうし、事前に無人探査機で調査するような方法もあるでしょう。そういった視点で、いろいろなニュースの動きを捕えていくと、背景を含めより理解が深まると感じます。