最終更新 2019.01.28
科学観測は国際的な連携・情報交換が活発な分野です。太陽観測でも、多くの団体が関心を持ち、国際的な連携プログラムが実施されています。太陽観測は太古より行われており、これが現在の太陽暦になったわけですが、太陽暦に必要な太陽の動きだけではない太陽の活動の観測の歴史としては、9世紀の中国の記述などが見られます。以降、太陽黒点に関する記述は各地で見られ、新しいところではガリレオが1610年に自作望遠鏡を発明し、太陽黒点を発見・観察したという記録が残っています。なお、後述する太陽黒点は、太陽の周囲より少し温度が低く暗く見えるもので、そこからは目に見えない活発なエネルギー粒子や放射線が噴出しています。昔から、地球の気象変化などと結び付けて観測が行われてきました。
太陽黒点といえば、読者の中には、ちょうど図のようなスケッチをしたことがある方もいるのではないでしょうか。
簡単に説明すると、まず望遠鏡で太陽をとらえてから、太陽がずれないように望遠鏡でガイドしながら太陽を白画用紙に投影します。そして、写った太陽外形を鉛筆で書き、黒点部分も書き入れて観測日誌(太陽黒点のスケッチ)として残すという、とてもオーソドックスな太陽観測の方法です。この観測は研究者だけのものではなく、熱心なファンはこの観測結果を天文雑誌や理科年表の統計と比較研究し、太陽活動の周期などを確かめます。
このように、望遠鏡が現れて以来、更に太陽の活動に関する研究が進んできたわけですが、人工衛星における太陽の謎への挑戦は20世紀後半に入ってからになります。
人類は、何故太陽を観測しているのでしょうか?回答として、太陽観測の大きな目的を4つ挙げると、ひとつは、地球の気候との関わりを把握することです。小難しいかもしれませんが、主に熱収支、つまり地球に得られる太陽のエネルギーを把握することが重要な課題となっています。
2つめは、宇宙での天気(宇宙放射線など)を観測し、太陽風や、太陽フレア発生に伴い増加した地上の紫外線・X線が大気に吸収される際の熱の増加などを把握することです。地球への影響だけでなく、宇宙船・人工衛星の運行にも大きな影響を与えるものなので、観測が不可欠です。
3つめは、天体としての太陽の誕生とその一生のメカニズムを解明することです。自ら光を発している恒星は、その質量や大きさ・光度によって天文学上の星の進化を知るための分類がされています。「赤色巨星」や「白色矮星」などは皆、様々な大きさの恒星の進化の一過程です。私達の太陽は、この光度による分類(スペクトル型)では、「G2型」に分類されています。タンパク質起源の生命が、安定して進化していく期間、存続可能なちょうど良いエネルギーを得られるということから、同じG2型の恒星の惑星に生命が誕生しやすいという仮説をたてる科学者もいます。こうした理由で、太陽が星の進化の過程のどこに位置し、今後どうなっていく運命であるのか、最も身近な星として把握していくことが重要視されています。
4つめは、太陽のエネルギー発生の物理学上の仕組みを解明することです。いわば大きな核融合炉である太陽が、どのように反応して表面の現象を引き起こしているのか、実のところわかっていることはまだそう多くはありません。今後の長期的な観測により、徐々にこれらの謎が明らかにされていくことでしょう。
太陽観測の用語には、太陽黒点(sun spot)、太陽風(solar wind)、太陽フレア(solar flare)などがあり、太陽は光球、彩層、コロナ部分に大別されています。日食の時には光球・彩層と呼ばれる部分が月によって隠されてしまうため、地上から「コロナ」の部分をはっきり見ることができます。
太陽の光球の表面温度は約6000度、コロナまでの薄い大気層である彩層は約1万度で、コロナとの境界で急速に温度が上がり、コロナは100万度以上に達する高温のプラズマとなっています。太陽の光球表面で周りの温度よりやや低く(約4000度)なるために黒く見えるのが黒点です。その黒点は太陽の表面活動が活発化すると増え、それに伴い表面での活発な太陽活動現象である「太陽フレア」の発生が多くなることが知られています。太陽からは常に「太陽風」と呼ばれる太陽からの輻射(太陽光を含む放射エネルギーなど)があり地球に到達しています。
太陽表面活動の活発化に伴い、その輻射量は増減します。一般に知られている太陽活動周期11年のうち、最も活動が活発になる時期を「極大期」、活動が沈静化する時期を「極小期」と呼んでいます。太陽からは、X線、γ線を含む電磁波の他、プラズマ化した粒子線(太陽からは主に電子、陽子、アルファ粒子)の「太陽風」が地球までやってきます。太陽風は生命に危険を与えるものですが、地球の磁場と大気が、これらが直接地上に降り注ぐことを防いだり和らげたりしています。
太陽フレアが発生すると太陽からの輻射は一時的に通常の数倍から1万倍にも達します。特別大きなフレアが発生した場合、地球にも磁気異常などの大きな影響があるため、太陽バースト現象として天文ファンだけでない多くの人々の関心を集めます。
太陽活動が活発になる時には地上の紫外線が増し、また、バースト現象とも呼ばれる大規模なフレアの場合、宇宙船の中に達する可能性のある中性子線が生じて、宇宙飛行士の放射線被爆量を増加させてしまいます。地球上空の大気はより強くなったX線を吸収することで温まるため、気候に於いても影響が甚大です。他にもバーストが発生すると、人工衛星の機器に異常が見られたり、大気密度が増して軌道が下がった人工衛星の軌道補正をしたり、宇宙の仕事をする人々にとってはより注意しなければならないことが多数あります。
衛星には、一般に太陽活動周期にあわせた長期の観測が期待されています。下図の写真は、JAXAが1991年に打ち上げた太陽X線観測衛星「ようこう」(SOLAR-A)が捉えたX線観測画像で、グラフの縦軸が観測年、横軸は太陽黒点数をあらわしています。
コロナの中で「周辺より密度が高く磁場の強い領域」を太陽紅炎(プロミネンス)と呼んでいます。「ようこう」(SOLAR-A)では、軟X線観測でコロナやプロミネンスの様子をより鮮明にとらえ、硬X線望遠鏡では、太陽フレアから高エネルギーの電子が生成されることを解明しました。
また、1995年に打ち上げられたESA/NASA共同ミッションのSOHO衛星でも、図のような鮮明なプロミネンスが撮影されています。SOHO衛星では、極紫外線を利用したコロナ底部から生じる高温プラズマ発生のしくみ解明が進められており、紫外線3バンドの波長をそれぞれRGBに割りつけた太陽のカラー映像などが公開されています。
2006年9月23日にJAXAが打ち上げた「ひので」(SOLAR-B)には、米国NASAやイギリスとの共同開発のセンサも搭載されており、可視光とX線の望遠鏡、極紫外線分光装置が搭載されています。「ひので」は、地球観測衛星のように地球を周回しながら観測を行っています。
また、図に示すイメージのように、2006年10月25日に打ち上げられたSTEREOという米国NASAの衛星では、こうした高温プラズマの発生のしくみなどを2方向から撮影して、3D化するという方法を採っています。稼働中の太陽観測衛星には、「ひので」(SOLAR-B)、STEREO以外にSDO、TRACE、RHESSI、Proba-2などがあり、それぞれ観測を重ねています。
ESA/NASAの共同ミッションのUlysses(ユリシーズ)は、1990年に打ち上げられた衛星で、地球近傍と木星近傍を極方向に太陽を回る楕円軌道をとっており、太陽の北極近傍と南極近傍を数年おきに観測できるというユニークなものです。打上げ後18年を経過した2009年6月30日に運用を終了しました。
これらの衛星の活躍により、太陽の観測を更に進め、太陽に隠されている活動のエネルギーやそのしくみが徐々に解明されてきています。
左右にスクロールしてご覧ください。
衛星 | Helios 1(Helios-A) | Helios 2(Helios-B) | 太陽X線観測衛星 「ようこう」(SOLAR-A) |
Ulysses |
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国 | ドイツ/米国(NASA) | ドイツ/米国(NASA) | 日本 | 欧州(ESA)/米国(NASA) |
搭載 センサ名 |
-plasma detector -two flux gate magnetometers -plasma and radio wave experiment -cosmic-ray detectors -electron detector -zodiacal light photometer -micrometeoroid analyzer -celestial mechanics experiment |
-plasma detector -two flux gate magnetometers -search-coil magnetometer -plasma and radio wave experiment -cosmic-ray detectors -electron detectors -zodiacal light photometer -micrometeoroid analyzer -celestial mechanics experiment -Faraday rotation experiment -occultation experiment |
軟X線望遠鏡(SXT) 硬X線望遠鏡(HXT) 軟X線ブラッグ分光器(BCS) X線~γ線広帯域分光器(WBS) |
-BAM(solar wind plasma experiment) -GLG(solar wind ion composition experiment) -HED(magnetic fields experiment) -KEP(energetic-particle composition/ neutral gas experiment) -LAN(low-energy charged-particle composition/anisotropy experiment) -SIM(cosmic rays and solar particles experiment) -STO(radio/plasma waves experiment) -HUS(solar x-rays and cosmic gamma-ray bursts experiment) -GRU(cosmic dust experiment) |
観測期間 | 1974年12月10日打上げ 1985年2月終了 |
1976年1月15日打上げ 1979年12月終了 |
1991年8月30日打上げ 2005年9月12日終了 |
1990年10月6日打上げ 2009年6月30日運用終了 |
特記事項 | 軟X線によりコロナを鮮明に撮影、硬X線望遠鏡により太陽フレアから生じる高エネルギー電子の生成箇所とふるまいを明らかにした。 | 地球近傍と木星近傍を極方向に太陽を回る楕円軌道。太陽の北極近傍と南極近傍を数年おきに観測できる。3回目の極観測を行った。 |
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衛星 | Genesis | SOHO(The international Solar and Heliospheric Observatory) | TRACE(Transition Region and Coronal Explorer) | RHESSI(Reuven Ramaty High Energy Solar Spectrosocopic Imager) |
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国 | 米国(NASA) | 欧州(ESA)/米国(NASA) | 米国(NASA) | 米国(NASA) |
搭載 センサ名 |
-SUMER(solar-ultraviolet emitted radiation experiment) -CDS(coronal diagnostic spectrometer) -EIT(extreme ultraviolet imaging telescope) -UVCS(ultraviolet coronograph spectrometer) -LASCO(white light/spectrometric coronograph) -SWAN(solar wind anisotropies experiment) -CELIAS(charge, element/isotope analysis experiment) -COSTEP (suprathermal/energeticparticle analyzer) -ERNE(energetic-particle analyzer) -GOLF(global oscillations at low frequencies experiment) -VIRGO(variability of solar irradiance experiment) -MDI(Michelson Doppler imager) |
TRACE Telescope | imaging spectrometer | |
観測期間 | 2001年8月8日打上げ 2004年12月運用終了 |
1995年12月2日打上げ -現在稼働中 |
1998年4月2日打上げ 2010年6月運用終了 |
2002年2月5日打上げ 2018年8月運用終了 |
特記事項 | 2001年に太陽風サンプル取得、2004年9月8日に回収カプセルでサンプル回収 | 極紫外線によるプラズマ観測画像 | 磁力線構造を高い解像度で撮影 | 赤道から38度の傾斜で地球を周回 |
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衛星 | 「ひので」 (SOLAR-B) |
STEREO(Solar TErrestrial RElations Observatory) | Proba-2 |
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国 | 日本 | 米国(NASA) | 欧州(ESA) |
搭載 センサ名 |
可視光望遠鏡(SOT) X線望遠鏡(XRT) 極紫外線撮像分光装置(EIS) |
Sun watcher using APS detectors and image processing (SWAP) Lyman-alpha radiometer (LYRA) Thermal plasma measurement unit (TPMU) Dual segmented Langmuir probe (DSLP) |
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観測期間 | 2006年9月23日打上げ -現在稼働中 |
2006年10月25日打上げ -現在稼働中 |
2009年11月2日打上げ -現在稼働中 |
特記事項 | 地球周回軌道より太陽を観測 | 2衛星による3D観測 |
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衛星 | Solar Dynamics Observatory(SDO) | Interface Region Imaging Spectrograph(IRIS) | Parker Solar Probe | Solar Orbiter |
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国 | 米国(NASA) | 米国(NASA) | 米国(NASA) | 欧州(ESA) |
搭載 センサ名 |
Helioseismic and Magnetic Imager(HMI) Atmospheric Imaging Assembly (AIA) Extreme ultraviolet Variability Experiment (EVE) |
IRIS telescope(ultraviolet telescope) +imaging spectrograph 5000 K - 65,000 K(フレア時は1千万K以上)の観測 SDOと連携して多くのダイナミック映像を撮影予定 |
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high-resolution magnetograph high-resolution imager high-resolution spectrometer |
観測期間 | 2010年2月11日打上げ -現在稼働中 |
2013年6月28日打上げ -現在稼働中 |
2018年8月12日打上げ -現在稼働中 |
2020年打上げ予定 |
特記事項 | 近地点高度620km、遠地点高度670kmの太陽同期極軌道(楕円)予定 | 太陽表面から592kmまで近づく |
あれ?まだまだ太陽観測衛星と言われているものが出ていない?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。ここでは地球の周囲の放射線環境や磁気圏、太陽系スケールの放射線環境や磁気圏の観測を主にするとうたっている衛星が入っていないからかもしれません。
太陽系自身の観測について整理していないので、少しだけですがここで触れておきますと、NASAでは、エクスプローラー1号(Explorer-1)、月探査でも取り上げたTHEMIS、Cluster、IBEX、近年はNASAの4機の磁気圏観測衛星MMS(Magnetospheric Multiscale)などがあります。更に地球表面近くのもので、地球大気環境も含めて観測を実施するものを合わせると、単に太陽観測衛星としてうたわれている衛星との境目がわからなくなってきます。TWINSなどもその部類です。太陽活動とオーロラ発生は関連があるため、こうした観測も広義には太陽観測といえます。オーロラ予測などでは早くからACEも使われています。
日本の衛星では、地球周辺の磁気圏などを観測する、1989年2月に打ち上げられ26年間の観測を実施したオーロラ観測衛星「あけぼの(EXOS-D)」、1992年に打ち上げられた日米共同の磁気圏尾部観測衛星「GEOTAIL(ジオテイル)」、2016年12月打ち上げのジオスペース探査衛星「あらせ(ERG)」が挙げられます。
こうした中で、一番太陽観測に近いと迷うのは、2015年2月に打ち上げられた米国の宇宙環境観測衛星DSCOVRです。DSCOVRは、太陽と地球のいくつかの重力平衡ポイント(ラグランジェ点)の日照側のL1ポイントへ投入されています。L1は、地球から太陽への視線方向にあり、地球からの物理的環境をほとんど受けない距離にあります。地球にダイレクトに効いてくる太陽活動による影響をいち早く察知できます。地上への影響だけでなく、宇宙船の機器や人体への影響を考え、こうした観測はこれから人類が地球を離れると、更に重要度が増してくるでしょう。各惑星の磁気圏や放射線に関する記述ができれば、そこに整理したいものです。