宇宙技術開発株式会社

月探査は新たな段階へ

最終更新 2019.07.18

近年の月探査計画

米ソ冷戦後の月探査計画を少しだけ振り返ってみます。月周回計画には、1998年1月から1999年7月まで米国のルナ・プロスペクター(Lunar Prospector)が月を周回・観測データを得たものの、可視や赤外線などの画像観測機器を搭載していないため、月面撮影画像は取得されていません。

ルナ・プロスペクター以前にも続いた月探査の空白期間を埋めたのは、ESAが2003年9月27日に打ち上げたスマート-1(SMART-1)でした。50mという解像度の月面画像を取得し、最後は2006年9月3日に月面クレーターにその身を衝突させ、一生を終えました。

そして、近年の月探査計画と言えば、米露と、ESAに加えてその後はさまざまな国の探査機が月へ向かうようになりました。2007年9月14日に打ち上げられた日本の月周回衛星「かぐや」(SELENE)、2007年10月24日に打ち上げられた中国の嫦娥 (チャンゲ(日本では「じょうが」とそのまま読んでいるものもあり))1号、2008年10月22日午前9時51分にインドのチャンドラヤーン1号(Chandrayaan-1)の打ち上げが成功しました。また、2009年6月19日に解像度1mの画像を撮影できるNASAのルナ・リコネッサンス・オービター(LRO: Lunar Reconnaissance Orbiter)も打ち上げられました。ここに新たな月探査時代がやってきました。

かぐや」は、約2年間の観測を行った後、2009年6月11日に月に衝突しその生涯を終えました。多くの成果として、打ち上げ前から話題になっていたハイビジョン画像や地形カメラ及びマルチバンドイメージャなどによる鮮明な画像が記録・配信されました。

「かぐや」は、立体視を行うための地形カメラが10m、光学系のマルチバンドイメーシャも可視光で20mの空間分解能を持っています。全球の約2kmの間隔で高度5mの観測精度で計測したレーザ高度計のデータも圧巻です。等高線間隔が1km単位に引かれた月の高度画像を是非ご覧下さい。計測精度は5mと格段に精度が上がっており、これらのデータを使えば、クレメンタインが作成した月面画像等を、そっくり置き換えることができると考えます。

この月面の高度データを見て特筆すべきは、南極付近の低い地域と高度の高い地域では20km近くもの高低差があることです。「かぐや」では、他にも重力異常や磁気異常の観測など、科学的な現象の観測精度も格段に良くなっています。また、月面の洞穴入り口が撮影されていると推察できる映像も公開されました。以前から、月の表面下には空洞がいくつも存在するのではないかという仮説が立てられていたのですが、有力視されていたマリウス丘近辺の映像も公開されました。

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2009年発-月面の水を掘り起こせ-

NASAでは、1998年1月~1999年7月に行われたルナ・プロスペクタ-のミッションで、目標としていた月の両極に存在が示唆されていた氷(水の)発見に努めたものの、明確な痕跡を得られなかったことがあります。ルナ・プロスペクターの機体は、最後には月面にぶつけられ、その衝撃により月表面から出るかもしれない水酸基のイオンを計測するという方法がとられました。この時にはっきりとした痕跡を得ることができなかったため、更に規模を大きくした衝突がエルクロス(LCROSS: Lunar Crater Observation and Sensing Satellite)でとられることになりました。なお、2009年6月11日に日本の「かぐや」も月に衝突・観測されていますが、はっきりとした水の証拠が出ませんでした。また、それに先立ちチャンゲ1号も、2009年3月1日に月面に衝突させられており、その様子を「かぐや」が撮影しています。

さて、そのNASAのエルクロスは、月周回機のルナ・リコネッサンス・オービター(LRO: Lunar Reconnaissance Orbiter)と共に2009年6月に打ち上げられました。エルクロスは、観測ペイロードを載せた本体部とアトラスVロケットの2段部分であるセントール上段ステージから成り、ルナ・リコネッサンス・オービターを分離した後の下の部分です。2009年10月9日に、最も水の存在が期待されている南極地域に、2段階で衝突させる計画がとられたのです。セントール上段ステージ(約2,000kg)をまず衝突させてまきあげたプルーム(※)を、本体の観測装置(約700kg)で観測した後、10分程度の時間差をおいて本体も月面に衝突させ、その様子を地上の望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡で観測しました。

衝突させたのはチャンドラヤーン1号で水氷の痕跡が観測されていた月の南極域にある太陽光が永久にあたらないCabeusクレーターです。2009年11月13日の報道によれば、この観測から、いずれも水の存在を示すスペクトルを観測したとのことです。

プルームとは、吹き上げられるまたは噴出するガスや塵のことです。航空宇宙分野では大抵この意味で使われており、航空機やロケットの噴射ガスなどの残留物などもプルームと呼びます。広義には、密度が小さく上昇したり、密度が大きく沈殿するもののこと。

一方、エルクロスと共に打ち上げられた月周回機ルナ・リコネッサンス・オービターは、月上空100kmからの観測を始め、軌道高度を最終的には50kmまで落として観測を行っています。ミッション期間は1年でしたが、延長され打ち上げから10年が経過します。搭載カメラには60cmの高解像度の月面観測ができるものが含まれています。米国の現在の月報道では、LRO観測画像がよく使われています。2012年2月20日の報道では、未だに月の中心部が冷え続けていることによる断層の拡大が観測されたと発表されました。

月の水に関してですが、2010年3月4日のNASA発表によると、チャンドラヤーン1号に搭載しているMini-SARの観測結果から、月には約6億トンの水存在する可能性があると報告されました。なお、チャンドラヤーン1号は、2009年の8月には運用が終了しています。

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周回機は継続そして未来へ

中国はチャンゲ2号(Chang'e-2)を2010年10月1日に打ち上げ、1号より解像度を上げた画像取得のため、高度100kmの低軌道に投入されました。解像度7mの写真を撮影した後、2011年6月には月周回軌道から離脱し、8月にはL2ポイントへ移動しました。更に、2012年4月にはそのL2ポイントからも離れ、小惑星トータチス(Toutatis)のフライバイ観測を2012年12月に実施しました。2013年12月にはチャンゲ3号(Chang'e-3)が打ち上げられ、米露以外の国では初となる月面着陸に成功しました。チャンゲ3号は、「玉兎1号(Yutu-1)」というミニ探査ローバを搭載し、ローバーによる移動観測も実施しました。

中国は、近年驚異的な月探査への意欲を示しており、3号での月着陸に続き、2018年12月には3号の予備機を改修して開発したチャンゲ4号(Chang’e-4)を打ち上げ、2019年1月3日に月の裏側(極域のエイトケン盆地)に世界で初めて着陸させることに成功し、ミニ探査ローバー「玉兎2号」による周辺の移動探査も行っています。月の裏側に着陸させるにあたっては、地球との直接通信ができないため、地球と月の重力平衡点のひとつであるL2(ラグランジェポイント2: 地球月間の地球から遠い月の裏側方向の平衡点)軌道に中継衛星が置かれ、通信を確保していました。

中国の今後の計画は、月面からのサンプル採取とサンプルリターンを計画しているチャンゲ5号(Chang’e-5)が2019年末に打ち上げ予定です(2014年10月にはそのための回収モジュール試験機Chang'e 5-T1が打ち上げられた)。2019年1月の発表では、2021年頃チャンゲ6号(Chang’e-6)で月の南極からのサンプルリターン、7号で月の南極の地形、地質、環境観測の実施していくということです。

インドのチャンドラヤーン2号(Chandrayaan-2)は、2019年7月に打ち上げられる予定です。チャンドラヤーン2号は、月周回機と着陸機、ローバーからなる計画です。

NASAでは2011年9月にグレイル(GRAIL: Gravity Recovery and Interior Laboratory)という、同じ仕様の2機の月重力探査衛星を打ち上げました。ミッションは2012年12月に月面に衝突させ終了しました。2013年9月にはNASAがラディ(LADEE: Lunar Atmosphere and Dust Environment Explorer)という月周回機で月周辺の微量大気観測を試みました。LADEEミッションは2014年4月に月の裏側に衝突して終了しました。

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クレメンタインとルナ・プロスペクターとスマート1の搭載センサー
近年実施された月探査ミッション(1/2)
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セレーネとチャンゲ1号とチャンドラヤーン1号の搭載センサー
近年実施された月探査ミッション(2/2)
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ルナ・リコネッサンス・オービターとARTHEMISとチャンゲ2号とグレイルとラディーの搭載センサー
近年実施または稼働中の月探査ミッション
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さあ、ニュースペースの時代がやって来た

月周回機や着陸しての探査機を国の事業で数年から10年単位で開発し立ち上げを行う時代から、ここ数年は新風が吹き、変革という嵐がやってきています。民間やさまざまな国が参入して小型で安価に開発が進められた結果、それまで後追いとされてきた中国やインドの他、民間チームまでが月への着陸を目指すようになりました。他の宇宙新興国も、次々と宇宙開発へと乗り出す勢いです。うたい文句は「火星へ人類を」ですが、一足飛びに人類が行くには課題と危険が山積しています。月探査はこの課題解決に恰好の題材と言えるでしょう。

説明的となりますが、先陣を切ったのが、スペースX社やブルー・オリジン社を始めとする民間ベンチャーによる商業用ロケット開発の流れです。無論これには、これまでの威信をかけた大企業も、そのまま引き下がるわけには行きません。ニュースペースと、オールドスペースの多くの企業で、ロケットや衛星・探査機、ローバーに亘り、開発競争が始まったのです。同時期になりますが、IT大手グーグル社からは月探査競争に対し、賞金をかけたミッション募集(2007-2018年)まで飛び出しました。残念ながら、この応募に勝ち残ったグループ等は、期日までにロケットを含めた調達に成功せず、賞金は棚上げされてしまいました。勝ち残っていた日本の小型ミッションも無念ではありますが、別の機会の成功を心より応援しております。

一方、国家レベルの大きな動きがあったのが、オーストラリアで2017年9月に開催された第68回国際宇宙会議2017(IAC: International Astronautical Congress)です。NASAとロシア宇宙機関(ROSCOSMOS)の間で、NASAが火星の有人探査の足掛かりとして2017年初頭に打ち出した月軌道プラットフォームディープ・スペース・ゲートウェイ(DSG: Deep Space Gateway)構想について協力して開発・探査にあたる共同声明に調印が行われ、現在地球を周回する国際宇宙ステーションのように、月を周回するステーションの計画が持ち上がりました。

NASA火星への道
NASA火星への道

ゲートウェイ建設には、輸送ロケットの特集でも、おいおいまとめることになる米国の新型ロケットSLSが、輸送上大きな役割を果たします。NASAは、ゲートウェイの最初のモジュールとして2022年に電気推進エレメントを打ち上げ、2026年頃までの完成を計画しています。そのSLSの初号機は2020年6月に打ち上げが予定されています。この打ち上げでは、13個の月探査に関する超小型ミッションが搭載されることになっています。日本のエクレウス(EQUULEUS)、おもてなし(OMOTENASHI)もこの中に参加しています。ゲートウェイは、月を楕円軌道で極方向に周回する計画が有力です。日本でも、2018年1月のNASAと宇宙探査に係る共同声明や、同年3月のESAとの共同声明でも触れられ、協力の方向性が様々に検討されています。小型の月探査計画や補給支援、有人技術実証についても視野の範囲です。近年力をつけてきた民間のベンチャーや大学を含む探査も、国内外から資金を獲得し、併せて進むと考えます。

さて、このゲートウェイ構想と並行して進む日本の月探査計画を見てみましょう。小型月着陸実証機(SLIM)が、2021年度打ち上げ目標でエントリーされています。2018年11月の国際宇宙探査小委員会の検討案資料を引用すると、欧州・カナダと協力を行う月広域・回収探査のための月離着陸実証ミッション(HERACLES)(2026年度打ち上げ目標)、インドと協力を行う月移動探査・月極域探査ミッション(2023年度打ち上げ目標)月周回拠点補給ミッション(2026年度初号機打ち上げ目標)が国際宇宙探査の想定ミッションとして挙げられてきています。

急速に展開速度の高まった月開発の流れは、他の宇宙開発要素(輸送ロケットや衛星開発、通信)計画も含め国際法の重要性が求められます。通信の規格の標準化や、海や新天地の開発の時と同じように、開発のルール化が必要となってきています。国際的なゲートウェイ建設開始と併せて、拠点整備や各国探査計画が、2023年頃の月極域を目指し、ファーストゴールに据えられています。地球近傍軌道を周回する国際宇宙ステーションが最初の一歩なら、ゲートウェイから月基地へは、地球圏拡大の、新たな宇宙時代の始まりなのかもしれません。