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ロケット、衛星、情報通信、宇宙ステーション、射場まで。システム開発も含めた運用のエキスパート。

映画ゼロ・グラビティについて

映画ゼロ・グラビティは米国時間2014年3月2日に、監督賞や視覚効果賞、撮影賞などアカデミー賞の7部門を受賞しました。 この映画は宇宙の描写をリアルに表現し、高い評価を得ました。宇宙業界内でも高い評価が得られていますが、一部誤解を招く箇所もあります。
宇宙業界の一員としては、どこまでが真実で、どこを映画用に脚色したかを理解して見ると、この映画をより楽しむことができると感じました。今後この映画はDVD等のメディアで販売されたり、テレビで放送されることで長く話題を集めていくと思います。

なお、映画を見ていない方にはネタバレになってしまう個所もあるので、映画を見た後で以下を読むことをお勧めします。 ちなみに、タイトルも邦題は「ゼロ・グラビティ」(無重力)ですが、原作はGravity(グラビティ:重力)と違っています。

以下にこの映画を見ながら疑問に思ったことをいろいろ解説しますが、宇宙空間での描写を描いた映画の中では間違いなくこの映画は一番良い出来です。取り上げた他にも沢山突っ込みどころはあると思いますが、あら探しではないので、これを網羅することはしません。また、その芸術性に疑問を投げかけるものではないことを一言添えさせて頂きます。これだけの映画を作った製作スタッフには敬意を表します。

SEDではこの映画を通じて、宇宙機の仕組みや運用などを知ってもらい、自分でもさらに調べてみたいと思うきっかけになれば良いと考え、この頁を作成いたしました。この頁をお読みいただき、映画ゼロ・グラビティの楽しさが増すとうれしいです。

2014年4月23日 更新(更新部青字)

1. 軌道傾斜角の違い

この映画で最も物議を醸すところです。宇宙船のエンジンを噴射させて軌道を変える場合、高度を変化させるのは簡単ですが、軌道傾斜角を変えるには非常にエネルギーを必要とします。従って、軌道に詳しい技術者に言わせれば、軌道傾斜角が異なる軌道へ移動させるくらいなら、別の宇宙船を打ち上げ直すのが常識です。

ハッブル宇宙望遠鏡(HST)の軌道傾斜角は28.5度、国際宇宙ステーション(ISS)の軌道傾斜角は51.6度、中国の宇宙ステーション天宮の軌道傾斜角は42.7度(天宮1号の場合)です。
ということで、たとえ、スペースシャトルが無事で、そのエンジンを使ってHSTの軌道からISS軌道へ向かうとしても燃料不足で全く届きません。ここは映画上の脚色と割り切って楽しく見ることをお勧めします。

【補足1】なお、軌道傾斜角だけでなく軌道高度も違います。ISSが高度約400kmなのに対してHSTは約550kmなので、この高度差だけでも宇宙服の推進パックでは到達できません。しかし、衛星の軌道を特定できない状態で議論しても無意味ですから、ISSと同じ高度の衛星が破壊されたらという前提でここでは考えます。

【補足2】コロンビア号事故以降、スペースシャトル飛行時の緊急事態に備えて、必ず救難用のシャトルを用意するようになりました。以前は、ISSミッション時にシャトルに問題が生じた場合、次のシャトルの打上げを待つ間、ISSに滞在して救助を待つコンセプトでした。ISSと軌道傾斜角の異なるHSTの修理ミッションであったSTS-125では(上記非常に大きなエネルギーが必要という理由から)ISSへの緊急避難が出来ないため、 軌道飛行中に帰還できないような問題が生じた場合は、もう1機のシャトルが救助に向える準備を整えたうえで、STS-125 が打上げられました(この時はシャトル打上げ用の2つの射点を両方使用して、打上げの準備が行われました)。
このような準備を行ったことを見ても、HSTの飛行軌道からISSへ向かうことは、シャトルの搭載推進系をもってしても無理であることが分かります。

2. スペースシャトルの飛行姿勢が誤っている

スペースデブリの脅威を描く映画ですから考慮して欲しかったのですが、この映画ではスペースシャトルは機首方向を進行方向に向けて飛行していました。見た目はその方が格好いいのですが、大気のない宇宙ではどんな姿勢でも飛行には影響しません。しかし進行方向に窓や翼前縁の耐熱材を向けると、微細なデブリが衝突するリスクがあるため、本来は尾部(エンジン方向)を進行方向に向けて飛行するのが正しい姿勢です(ただし、熱的な制約や、観測要求などによって変更することはあります)。

3. デブリの脅威について

映画の中では某国が衛星破壊実験を行い、次々とデブリ被害が拡大してケスラーシンドローム(※)が起きているかのようなストーリーでした。ナンセンスと笑うことはできませんが、飛んできた残骸が通信衛星だと言うのは変です。通信・放送衛星は静止軌道にいるのが普通なのでそのような事態が起きたとしても低周回軌道に影響を及ぼすことはありません。

イリジウム衛星や小型のデータ中継衛星など静止軌道以外を利用する衛星も確かにありますが、あの場合は宇宙飛行士が見誤ったと理解する方が現実的です。何しろとてつもない速度差なので肉眼では形状まで判別できないはずですから。
一方で、90分ごとに次のデブリ襲来が起きると表現しているところ等はなかなかリアルです。

【補足】静止通信衛星が破壊された場合は周期は24時間なのだから、ISSのように低い軌道の周期90分でデブリが襲来するのはおかしいという意見もあります。しかし、衛星軌道を特定できない状態で議論しても無意味ですから、映画では、ISSと同じ高度の衛星が破壊されたらという前提であろうと考えています。

※ケスラーシンドロームとは
NASAの研究者ケスラー氏等が説明した理論。衛星数が多く、相対速度差が大きくなる低軌道を周回している衛星で特に起きやすい現象。衛星同士の衝突によって破片が多数放出され、この速度をもった破片が、他の衛星や他の破片を破壊することにより、自己増殖的に次々と周辺の軌道の衛星の破壊を広げていく現象。
日本では、幸村誠氏原作の漫画で、2003年から2005年頃にNHKで放送された「プラネテス」というスペースデブリの回収業者の日常を描いたアニメでこの問題が取り上げられたため、話題になった。

4. 宇宙服のヘルメット内にHUDを装備、手首の手順書表示コンピュータは将来装備

映画を見て凄いと思ったのは、NASAの宇宙服(EMU)のヘルメット内がディスプレイになっていました。これは航空機でおなじみのヘッドアップディスプレイ(HUD)です。
また、EMUの左手首には手順書を表示するコンピュータが装着されていました。このような装備はまだ実用化されていません。しかしこの映画のシャトルはSTS-157「Explore:エクスプローラー号」となっていたので、少し先の話だと考えるべきでしょう(注:スペースシャトルの最終号機はSTS-135でした)。
NASAでも実際にこのような将来装備の研究は進めているので、未来のミッション設定という意味ではアリかもしれません。

【補足】「エクスプローラー号」は、ケネディ宇宙センター(KSC)に隣接された見学センターに設置されていた実物大模型に付けられていた名前です。もしそれを知っている人が命名したのだとしたら、遊び心かもしれません。
なお、この実物大模型の「エクスプローラー号」は、KSCの見学センターに本物の「アトランティス号」を展示した関係で、現在はジョンソン宇宙センターに隣接した見学センターへ移設されており、名前も「インディペンデンス号」に変えられています。

5. SAFERの装着なしでの船外活動は違反行為

船外活動中に誤って宇宙船から弾き飛ばされてしまって漂流したとしても自力で戻ることができるように、NASAの宇宙服を使用する船外活動ではセルフレスキュー用の推進装置SAFER(Simplified Aid For EVA Rescue)の装着が義務づけられています(1998年12月のSTS-88より)。
サンドラ・ブロックが演じるライアン・ストーン博士の宇宙服にはこの装備が装着されていませんでした。いくら将来の話でもこの安全基準を緩和することはないはずなので、これは違反です。

とはいえ、所詮はセルフレスキュー用の小型の装備なので、長時間の使用はできません。1, 2回程度の帰還チャンスしかない程の燃料(窒素ガス)しか積んでいません。

*SAFERや船外活動ユニット(MMU)や、テザー(紐状の機構)や冷却下着など船外活動時に使う装備や、プリブリーズ(減圧)といった運用の説明については、「星出宇宙飛行士ISS長期滞在プレスキット」の「4章 船外活動(EVA)について」が参考になります。

<参考サイト>

6. 船外活動ユニットを使って自由飛行で輪を描いて飛行している

マット・コワルスキーが新型の船外活動ユニットを使ってシャトルの貨物室で修理中のHSTの周りを飛び回っていましたが、形状的にはシャトルの初期時代に試験的に使った船外活動ユニット(MMU)と同じなので、飛躍的な性能向上は望めません。

宇宙では直線運動は簡単なので、少量の燃料でも有効に活用できますが、輪を描いて飛行するというのは非常に難しいことです。噴射装置(スラスター)をほぼ連続噴射しながら常に運動ベクトルを変えていく事になるのですぐに燃料切れになります。 輪を描いて飛ぶなら中心点にテザーをつないで飛行するのが一番楽ですが、宇宙開発関係者ならあれをやりたいので開発してと言われたら卒倒してしまうほどの難易度です。

7. ハッブル宇宙望遠鏡(HST)の太陽電池パネルは最新型。最新の結合機構も装備、HSTのコンピュータ修理機材もかなり正確

この映画を見た方なら細かい点にケチを付けがちですが、意外と正確な映像もあり、あなどれません。例えば、HSTの太陽電池パネルは2002年の4回目の修理ミッション時に交換された新型のパネルです。

また2009年の最後の修理ミッション時に追加で装着された最新の結合機構Soft Capture Mechanism (SCM)も正確に描かれています。さらにはHSTのコンピュータ修理用の機材も2009年に使われたものが描かれており、専門家でも納得する正確な映像も出てきます。

【補足】HSTのコンピュータ修理用の機材ですが、宇宙で回路基板まで交換したのはSTS-125による修理ミッション(HSTサービスミッション4)が初めてでした。回路基板は薄く、宇宙服のグローブは加圧に耐えらる強度の厚みが必要なことから、このような作業は厚いグローブをはめた状態で薄い紙切れを紙の束の中から引き抜くようなイメージになります。そこでNASAは、この作業用に船外活動クルーが大きなハンドルを使って回路基板をつかんで取り出せるツール、Indexing Card Extraction Tool(ICET)を開発しました。

<参考サイト>

8. ソユーズ宇宙船にはサイドハッチはないので誤り

ソユーズ宇宙船の帰還モジュールにはサイドハッチはありません。これはどうやらロシアの地上訓練用シミュレータの構造を真似して作ってしまったようです。
訓練時に出入りしやすいように地上設備専用に作られたこのドアは実機にはありません。

9. 船外からエアロックハッチを開ける操作が困りもの

専門家の視点から見ると、ここは基本操作なので正しく表現してもらいたかったという困った個所です。ライアン・ストーン博士が別の宇宙船に入ろうとしてハッチを開けるたびに吹き飛ばされそうになっていましたが、そうならないよう、船外ハッチを開ける前には必ず内部の減圧操作が必要です。

実際の宇宙機では、誤ってハッチが開いてしまって急減圧が起きないよう、扉はすべて内開きの設計になっています。こうしておけば、たとえ誤ってハッチを開く操作をしてしまっても気圧差で扉は絶対に人力では開きません。
この安全設計は、飛行機でも見られる設計です(飛行機の場合、ドアの厚みがあり脱出時の妨げになるため、外開き構造なのですが、ドアを開けるにはいったん内側へ少し引いてから外へ開く手順である点が異なりますが、基本的な思想は同じです)。もし飛行機の扉によりかかっていた時に開いてしまったら怖いと思うかもしれませんが、機内を減圧しない限り扉は開かないので心配は無用です。

<参考サイト>

10. 片手でハンドレール(※)やロープをつかむのは無理

このハッチから吹き飛ばされそうになるシーンや、ISSに乗り移ろうとする時に片手でかろうじてつかまるシーンが出てきますが、宇宙服のグローブは圧力差のため風船のように膨らんでしまいます。
それをいかに抑え込むかが設計の難しいところですが、そのようなグローブで把持するには相当握力が必要です。船外活動を終えた宇宙飛行士は疲れて握力がなくなるほど手が疲労します。

従って、このような力を出すのは難しいので諦めが必要でしょうが、それでは映画が終わってしまうので、生死の狭間で馬鹿力が出たと考えるのが良いかもしれません。

※ハンドレールとは
船外で飛行士が移動を安全に行えるようにつかめる手すり。作業する時の身体固 定や小型機器の固定に使われる補助的なレール機構のこと。

11. 宇宙服の冷却下着なしで船外活動をしている

ライアン・ストーン博士が宇宙服を脱ぐとセクシーな下着姿になるシーンがありますが、現実は冷却下着を装着していないと暑さを感じたり、肌が何かに挟まれて痛い思いをすることになります。 とはいえ、映画で忠実にそれを再現すると野暮ったくなるので、ここは気にしないのが一番です。

【補足】宇宙服を脱ぐシーンに関してはいろいろ議論があるところなのですが、一番ため息が出るのは脱着が早いことです。1人でもあんなに早く宇宙服を脱着できるのはうらやましい限りですが、現実ではまだまだです。こういうところも今後、開発を目指していくべき部分ですね。

12. 3人同時のEVAを行っていたが、ノミナル(通常)運用ではやらない

冒頭の船外活動(EVA)シーンでは、3人の宇宙飛行士が同時にEVAを行っています。これは不可能ではないのですが、1992年5月のSTS-49でインテルサット6 F-3衛星の捕獲に失敗したために特別に3人で手づかみで捕獲したという例外的な運用が1回だけあるだけです。
非常時以外にはこういうことはしません。残酷さを伝えるために、1人をどうしてもいなくする必要があったという映画ならではの脚色です。

【補足】こちらの写真(NASAサイト)が3人で船外活動を行って衛星を手づかみして捕まえたSTS-49ミッション時の船外活動時の写真です。

13. ISSの外部構造に宇宙服を着た状態で衝突すると、通常は宇宙服が損傷してそこで終わり

宇宙服はケブラーを使ったりするなど何層もの層を重ねて非常に丈夫に作られています。しかし、さすがにISSに衝突しても無事でいられるとは思いません。もし1か所でも弱い場所に穴が開けば30分以内に船内に戻らなければならなくなるほど厳しい状況になります。

こういうリスクを避けるために、実際の船外活動では、尖った場所のそばには近づかないよう(そもそもそういう設計をしないよう定められていますが、アンテナなどどうしても設計上必要な部分は立ち入り禁止で対応します)、立ち入り禁止エリアなどが設定されています。

14. 宇宙空間でソユーズカプセルの着陸時の衝撃緩和エンジンを噴射できるとは思えない

これも物議を醸すシーンです。実際にはロシアの設計者に尋ねないと正確なことは言えないのですが、おそらくこれは無理でしょう。ソユーズカプセルの着陸時の衝撃緩和エンジンはガンマ線を地面に当ててその跳ね返りから距離を確認して噴射のタイミングを計っています。それをだまして宇宙で実行させるニーズはないので、そういう設計にはなっていないはずです。

しかも、たとえ噴射できたとしても、たいした推力と噴射時間はないので、対象の宇宙機までにはとても届かないはずです。これは映画用の脚色と考えます。
とはいえ、ソユーズ宇宙船が3つのモジュールに切り離されるシーンなどは正確なので、その辺を楽しんで見ると良いでしょう。

* ソユーズ宇宙船の説明については、「若田宇宙飛行士長期滞在プレスキット」の「付録3 ソユーズ宇宙船について」が参考になります。

<参考サイト>

15. ソユーズ宇宙船がなぜ宇宙空間で誤ってパラシュートを開いてしまうのか?あり得ない

モジュールを分離するまでは安全ロックがかかっているのが妥当な設計。
なぜかデブリ衝突の衝撃でISSに係留されていたソユーズ宇宙船の着陸用のパラシュートが開いていましたね。通常の設計では、モジュールが分離するまでは安全のために動作しないように安全上の設計をするはずですから、これも脚色が必要だったということで目をつむりましょう。

16. ソユーズ宇宙船の外で船外活動(EVA)を行っていたが、ソユーズ宇宙船内には宇宙服や船外活動工具は搭載していない。どこからパラシュートの固定を外す工具を見つけてきたのだろうか?

なんて準備万端なのだろうと感心してしまったが、そもそもあんな大きなパワーツールは現状では存在しない。ISSプログラムとしても、非常時に備えてアレを開発しておくべきだろうか?と一瞬ニヤッとしてしまうシーンです。
あのパワーツールをうっかり浮遊させてしまうのは、宇宙飛行士失格です。船外活動時はすべての工具をテザーで固定するのが基本操作です。まあ、そこは緊急時なので慌てていたということにしましょう。

<参考サイト>

17. あのような短時間でEVA準備を行うことはできない。足場なしでEVAを行うのは極めて難しい

ソユーズ宇宙船の外でEVAを行っていましたが、宇宙服の装着や減圧(プリブリーズ)には時間が非常にかかるのです。アメリカの宇宙服よりもロシアの宇宙服の方が準備時間が短く済むのは事実なのであまり細かくは言わないことにしましょう。
でも、普通は無理ですよ。あと、ソユーズ宇宙船の船外は丸い形状で足場として使える部分がありません。非常に難易度の高い作業なのですが、ライアン博士は非常に楽々と作業をしていました。スーパーウーマンというしかありません。

ソユーズ宇宙船の船外でのEVAは過去に何度か行われた事があります。最近では2008年7月にトラブルに対応するための計画外の船外活動を行いましたが、足場を確保するためにロシア製の船外活動クレーンを使うなど苦労して計画を立案しています。

18. ソユーズ宇宙船の与圧服のヘルメットが外れる仕組みになっていたが、そこは嘘

NASAの宇宙服は正確に描写されていましたが、ロシアの宇宙服はちょっとおかしなところがありました。ロシアのソユーズ宇宙船用のソコル宇宙服(与圧服)は、顔の前面を開けられる開放式のバイザーを背中に格納する方式で完全には外れません。
ロシアの宇宙服もヘルメットは外せません。ヘルメットを外せるのはNASAの打上げ/帰還時に装着する与圧服の設計です。ヘルメットを脱ぐシーンを撮りたかったために、少しデザインを変えてしまったというのが実際のところでしょう。

ちなみに、ソコル宇宙服は緊急時には船外でもサバイバルできる設計ですが、船外用宇宙服としての設計ではないため、あのような活動はできないと思われます。与圧服と宇宙服の描写を混同していますが、着替えるだけで何時間もかかるようではあのような非常時には生き残れないのでしょうがないと思うことにしましょう。

19. なぜISSに係留していたソユーズ宇宙船で帰還しないのか?

あのソユーズ宇宙船では帰還できないと言っていましたが、メインパラシュートが開いていただけで大きな異常は見られませんでした。中国の宇宙ステーション「天宮」に神舟がいるかどうかもわからないリスクを冒すなら、ISSのソユーズ宇宙船で帰還する方を選択するのが正しい判断です。
ソユーズ宇宙船には予備パラシュートもあるため、冷静に考えればそちらに望みを託して帰還する方が現実的です。まあ、ここは映画のシナリオ設定上の脚色と考えましょう。

20. なぜ無人で放棄されたISSと天宮にソユーズ宇宙船と神舟が1機残っていた?

通常は、滞在クルーがそれに乗って帰還するので、余った宇宙船が残されているわけはないのですが、ひょっとしたらライアン博士がたどり着くまでに滞在クルーが不幸なことに事故死したのかもしれませんね。

21. ソユーズ宇宙船の操縦方法はかなり正確。潜望鏡は実際の運用でも使われている

批判ばかりではありませんよ。正確な描写はしっかりと評価させてもらいます。ソユーズ宇宙船の操作方法はさすがに正確です。スラスタの噴射操作も2つのスティックで行います。中央の丸いスクリーンに船外の映像が写る様子が出てきますが、あんなものは見たことがないという方も多いと思います。

でもISSとのドッキング時にもあの潜望鏡は使われており、宇宙飛行士はその操作方法も訓練します。あのような映像は普段目にすることはないので、使い方を紹介するには良い例になります。
あと、ソユーズ宇宙船内の手順書が色分けしされていましたが、あれはすぐに探せるように本当に色分けされています。

<参考サイト>

22. 宇宙船の着座姿勢はダメ

しかし、ライアン・ストーン博士のソユーズ宇宙船と中国の神舟宇宙船内での着座姿勢はダメです。あれでは帰還時の衝撃には耐えられません。座席にぴったりと身体を密着させる必要があります。
もう少し突っ込めば、座席のシートライナーは宇宙飛行士ごとにカスタムメイドされているため、合わない座席で帰還すると怪我をします。水上に着水したので怪我もなく無事だったのだろうと思うことにしましょう。

【補足】写真のように(NASAサイト)、ソユーズ宇宙船内は非常に狭いため座席にぴったりと密着した姿勢で入ります。再突入時はシートベルトをさらにきつく締めて衝撃に備えます。

23. ソユーズ宇宙船に緊急避難するが、ハッチの開閉が早くできすぎる。ただし、操作方法はわりと正確

ハッチの開閉操作は割と正確に見えますが、あんなに早くはできません。実際には髪の毛やゴミが付着していないかきれいに拭ったり、ハッチ間を減圧してリークがないかを確かめたりするなど、結構手間がかかる作業です。
ちなみに、帰還モジュールと軌道モジュール間のハッチ操作が出てきませんでしたが、本来はもう1箇所ハッチ操作が必要になります。

24. ISSの形状はかなり正確

ISSの外観も船内もかなり正確です。もちろん、専門家の視点で細かく見るとアレ?と思う個所はありますが、将来のミッションということですし十分合格点です。

【補足】アレ?と思う個所の中では、欧州補給機(ATV)が結合しているのが一番目立ちます。残念ながらATVは2014年夏に打上げられる5号機が最後で退役します。欧州はこのATVの技術を基に、NASAと共同でオリオン宇宙船の推進系を含むサービスモジュールの開発を行います。

<参考サイト>

25. 消火器で軌道を変えて飛び移れるか?無理。

あれは無理です。実際のISSの消火器はわざわざ反動力が生じないようなノズル形状に工夫されているため、移動目的には使えません。ISSには米露の異なったタイプの消火器があり、ロシア製のものは水を利用する消火器なので真空中ではおそらく噴射部で水が凍結して全く役に立たないはずです。
使うなら米国製の二酸化炭素を利用する消火器を選びましょう(でも高圧ガスを充填しているわけではないのでほとんど推進しないはずです)。消火器を投げてその反動力を利用する方がまだ現実的でしょう(充填しているガスより、容器重量の方が重いため)。

<参考サイト>

26. デブリ衝突時に衝突音がしないのはかなりリアル。宇宙では音が聞こえないので、あれが正しい

宇宙空間での衝突時に、離れた場所では音がしないという演出はかえってリアルさを感じられるため評価に値します。

27. デブリの脅威は本当にないの?

確かに、デブリ問題は深刻ですが、10cm以上の大きなデブリはすべて地上からのレーダー観測と光学観測によって軌道が追跡されているため、ISSの周囲数十kmの範囲に入る可能性がある場合は念入りに監視され、必要であればISSの軌道を変えて回避します。

また十分小さなデブリは、デブリバンパで衝突エネルギーを吸収し与圧壁に穴が開かないよう設計されています。これまでデブリで与圧壁が破られた事例はありませんが、ISSに滞在する宇宙飛行士はそのような最悪のケースも想定して訓練を行っています。

<参考サイト>

28. なぜ、火花火災からISS内で爆発が起きるのか?デブリ衝突で大規模な推進薬漏れが起きない限りあんなことは絶対に起きない

これはISS関係者なら怒ってしまう個所です。有人宇宙機では火災や爆発が起きないよう非常に念入りに設計され、厳しい安全審査が行われます。宇宙に持っていくものは全て可燃性試験を受けるため、激しく燃えるものはないはずです。

従って、火災が起きたとしてもあれほど激しく炎が迫ることは絶対ありません。唯一、可能性があるとしたら軌道制御用に使うハイパーゴリック推進薬(2液を接触させると化学反応で着火するタイプ)がデブリ衝突により大量に漏れた場合ですが、映画を見ると推進薬を保管してあるロシア側のモジュールではなく、日本の「きぼう」モジュール側から火災が起きたようでしたね。ロシア側から爆発するなら分かるのですが、そうするとソユーズ宇宙船に避難できなくなるので、脚本上やむを得なかったと考えるしかありません。

29. 大気圏に突入しかけている宇宙ステーションから無事帰還できるの?

宇宙船を逆噴射させなくても大気圏に突入してしまうような高度で安全に帰還するのは難しいでしょう。弾道突入モードで激しいGを受けたことでしょうが、映画の最後のこの段階ではもはやそんな野暮は言ってはいけません。もう驚きすぎて今更という感じです。

ここは再突入の正確な描写に感心してください。あまり気が付かないかもしれませんが、宇宙飛行士が搭乗した重たいカプセルは大気による減速を一番受けにくいため、他の構造物よりも先行して飛行することになります。映画ではそういうシーンは正確に描写されていますので、あら捜しするよりもそちらに感心しましょう。

【補足】それにしてもなぜ中国の宇宙ステーションの高度はあんなに低くなって再突入しているのでしょうか?人為的な介入なしにはありえない現象のため、これは大きな謎です。 考えられそうな一つの答えとしては、宇宙飛行士が脱出した後、機密保持のために中国が意図的に落下させたと考えるのが妥当かもしれません。

30. 着水後にハッチを開けて浸水させてしまうのは、宇宙飛行士としては失格

映画の上映時間終了が迫っていたためと考えるしかありませんが、洋上着水した場合、ハッチを開けると水没する危険性があるので、レスキュークルーが来る前にハッチを開けてしまうのは感心できません。よほど人里離れた場所に降りたのでやむを得なかったのでしょうね。

【補足】水中に脱出した後、泳ぎやすくするために水中で与圧服を脱ぐシーンがありますが、実は簡単には脱げません。陸上でも1人で脱着するのはかなり大変です。

31. 地上とのアマチュア無線交信【新規追加】

みなさんは映画の中で、ソユーズ宇宙船から地上の人と無線交信することを不思議に思いませんでしたか?あれは結構大変なのです。
ソユーズ宇宙船の場合、VHF帯で通信できるので、アマチュア無線で交信すること自体は不可能ではないでしょう。しかし、宇宙から地上へ送る電波は出力が小さいため、大きなアンテナや増幅装置を持つハイレベルな方でないと受信するのは難しいはずです。

だから地上からの声は聞こえるのに、ストーン博士の声は地上に届かないんだなと考えるとある程度納得できます。とはいえ、宇宙船は地球を高速で周回するので、たとえアンテナで追尾しても10分も通信することはできません。固定式なら数分で切れてしまうでしょう。
ISSの建設が始められたころは、宇宙服の無線通信はまだアナログ方式だったため、地上の高出力な無線が混信して、作業の音声交信が聞きにくい状況の時もありました。今はデジタル化されているので混信の問題はなくなりましたが、あながちあり得ない話ではないと言えます。